先日、5月20日。
北海道、東北などで学習塾を経営する「進学会」のチラシ記載内容が、景品表示法違反に当たるとし、消費者庁が再発防止の命令をだしました。
今回の問題点は、新聞折込チラシで「国公立大出身講師98%」と謳いながらも、実際には、わずか14%しかいなかったということ。
しかし、私が今回のニュースを見て興味をもったのは、このチラシによって動かされた「ある人間心理」なのです。
講師の出身校を偽る「本当の理由」は何か?
上記のチラシからもわかるとおり、進学会は、「国公立大出身講師98%」であることをウリにしていました。ところが、フタを開けてみると、実際は「わずか14%」だったのです。
それが問題となり、消費者庁に再発防止命令をだされたのですが、いったいなぜ、国公立大出身の講師が多いことを広告で偽り続けたのか?
先生も、不思議に思いませんか?
国公立大出身の講師だからといって、決して、塾生を国公立大へ合格させられるとは限りません。国公立大出身の講師だから、良い授業をしているとも限りません。
国公立大出身であることと指導力には、何の関係もないはずです。
それは、先生もよくご存じのとおり。
では、どんな理由で、消費者をだましてまで、国公立大出身講師の数を大きく見せかけたのか?実は、そこには「ある心理テクニック」が使われているのです。それは…、
「権威」です
権威は、人に大きな影響を与えます。
「肩書き」は、なかでもわかりやすい権威の例でしょう。
たとえば、一般人が話したところで信用されない話でも、「大学教授」の肩書きをもった人がおなじ話をすると、人は簡単に信じてしまいます。面白いのは、その肩書きは「真実」である必要すらないこと。
実際は、肩書きをもっていなくても、「ただ名乗るだけ」で、人は簡単に信用してしまうのです。
それを証明する、こんな実験があります。
ある病院でこんな実験おこなわれました。
4つの異なる病棟を担当している22の看護師室に、研究者の一人が「おなじ内容の電話」をかけました。
彼は、自分が病院の医師であると告げ、特定の病室の患者に対して、ある薬を20ミリグラム投与するよう、電話にでた看護師に指示したのです。
この命令に従って行動しようとする際に、看護師が注意すべき点が「4つ」ありました。
1. 電話で処方がなされたこと(これは、病院の方針に違反するもの)
2. 薬それ自体が、認可されていないものであること
3. 処方された服用量は、危険なほど多かったこと
4. その指示は、これまで一回も話したことのない男性になされたこと
…実験の結果、なんと「95%」の看護師が、命令された量の薬を手に入れ、患者の病室にいこうとしたのです。
出典:「影響力の武器」ロバート・B・チャルディーニ(著)
この実験のポイントは、「私は病院の医師である」と電話で告げただけであること。
電話の主が「本物の医師」であることは、一切証明されていません。それなのに、95%の看護師が医師からの指示と信じ、危険な量の薬をもって、患者の病室にいこうとしたのです。
この実験が意味するものは一つ。
「権威」は、あなたの思考をストップさせます
権威は、日常生活のあらゆるシーンで利用されています。
ちょっと想像してみてください。
ある休日。
先生が、朝食を食べながらテレビを見ていると、ある「歯磨き粉のCM」が流れてきました。CMでは、白衣を着た歯科医師らしき男性が「歯周病予防には、この歯磨き粉が良い!」と力説しています。
「なるほど、専門家のいうことは説得力があるな」
「今使っているのがなくなったら、買ってみようかな」
と、思わず納得してしまいます。
その日の午後。
先生は、ふらりと本屋に立ち寄ります。
「何か面白い本はないかな」と、店内を見渡すと、話題の新刊を並べた大きな本棚が目に飛び込んできました。
たくさんの新刊が並ぶなか、ある一冊の帯に「あの●●氏が推薦!」と書かれてます。
その本を書いた著者は、聞いたことのない人…。
でも先生は、有名な「●●氏」が推薦していることで、「きっと、間違いのない本だろう」と購入してしまいます。
本屋をでた先生は、何かお菓子を買おうと商店街を歩きます。
「どこかいいお店はないかな」と見ていると、そのなかの一つに「皇室御用達」と書かれているのを見つけました。
見たことも、聞いたこともないお菓子ですが、「皇室御用達」と書いてあるし、きっと美味しいお菓子だろうと、少々高いにもかかわらず購入してしまいます。
今お話したのは、あくまでたとえ話。
でも、先生にも、心当たりがありませんか?
今お話したストーリーで先生が購入したものには、すべて「権威」が使われています。
このように、権威は、先生の思考をストップさせ、無意識のうちに特定の商品を選ばせているのですが…
「国公立大出身講師」の一文が、人にどんな印象を与えるか?
さて、進学会の話に戻しましょう。
「国公立大出身」というのも、一つの肩書きになります。
つまり、チラシを読んだ人は「国公立大出身講師98%」という一文を見て、「国公立大出身の講師98%もいるのだから、レベルの高い塾なのだろう」と、勝手に錯覚してしまうのです。
さらに、「塾は講師で決まる!」という一文も、「国公立大に合格するには、国公立大出身の講師から学べば間違いないだろう」という印象を与えることをねらったものと推測できます。
中小規模の学習塾も、マネした方がいいか?
結論から申し上げると、マネする必要はありません。
なぜなら、権威は、先生の塾を知らない人に対して、印象を操作し、選ばせるための「小手先のテクニック」だから。
今回の進学会の「国公立大出身講師98%」というのは、偽りの権威で、塾を選ぶべき理由を作りだしていたといえます。厳しい言い方をすれば、楽に集客できる「権威」に頼ることで、自塾のUSP(他塾にマネできない強み)を探すことを怠ったのです。
しかし、「先生の塾ならではの強み」を伝えることができれば、権威などに頼らなくても、たくさんの生徒を集めることができます。
事実、私はこれまで、いくつもの塾の集客を成功させていますが、塾長先生をはじめ、講師の出身校をアピールしたことは一回もありません。
それは、チラシ作成をご依頼いただいた「先生の塾ならでは強み」を権威などに頼らない、ほかのところに見つけだすことができたからです。
権威が、消費者を行動に動かす有効なテクニックであることは、まぎれもない事実です。
しかし、権威ばかりに頼ってしまったり、使い方を間違えたりしないよう注意しなくてはなりません。
それでは、またお会いしましょう。